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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)7592号 判決 1964年5月30日

原告 鈴木六右衛門

右訴訟代理人弁護士 旦貞康

被告 有限会社稲付第一市場

右代表者代表取締役 渡辺九郎治

右訴訟代理人弁護士 綿引光義

主文

一、原告が被告との間の別紙目録第二記載の土地賃貸借契約に基き、昭和三六年四月一日以降一ヶ月金四、六〇五円の賃料請求権を有することを確認する。

二、原告のその余の請求は全部棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、本位的請求として、「一、被告は原告に対し、別紙目録第一記載の各建物を収去して同目録第二記載の土地を明渡し、かつ昭和三六年九月一一日以降右明渡ずみに至るまで一ヶ月金五、〇三六円の割合による金銭の支払をせよ。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、予備的請求として、「一、原告が被告との間の別紙目録第二記載の土地賃貸借契約に基き、昭和三六年四月一日以降一ヶ月金五、〇三六円の賃料請求権を有することを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

第一、本位的請求

一、原告は、昭和九年二月一四日訴外浦野子之吉に対し、別紙目録第二記載の土地(以下「本件土地」という。)を契約期間昭和九年一月一日より昭和二五年二月末日まで(前契約の残存期間)、賃料は毎月二八日限りその月分を持参支払う旨の約で賃貸した。

二、しかして、右浦野は、右地上に別紙目録第一記載の建物二棟(以下「本件建物」という。)を建築所有したが、これを昭和二〇年一〇月二二日訴外王子温床化工紙有限会社に売渡し、同社は本件借地権を譲受けたが、右賃貸借契約は昭和二五年二月末日期間満了後、前契約と同一条件で法定更新された。

三、右会社は、国税の滞納により大蔵省のため右建物の差押を受け競売に付されたところ、被告は、昭和二六年七月二〇日競落により右建物の所有権を取得し、同月二四日その旨所有権取得登記を経由し、原告承諾の下に本件借地権を承継取得した。

四、しかるに被告は、昭和三三年七月分より引続き賃料の支払を怠つていたので、原告は、昭和三六年九月七日附翌日被告到達の書面をもつて、昭和三三年七月分より昭和三六年三月分までの賃料合計金九四、九七四円(坪当り金二〇円の割合)と昭和三六年四月分より八月分までの賃料合計金二五、一八二円(坪当り金三五円の割合)の総合計金一二〇、一五六円の支払を催告し、右書面到達後三日以内に履行のないときは、賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

五、被告は、右催告期限内に右賃料を支払わなかつたので、昭和三六年九月一〇日限り本件賃貸借契約は解除された。

よつて、原告は被告に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡し、かつ契約解除の翌日である昭和三六年九月一一日以降右土地明渡ずみに至るまで一ヶ月金五、〇三六円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

第二、予備的請求

仮に原告の明渡請求権が認められず、引続き賃貸借関係が持続されるものとすれば、原告は被告に対し、本件賃貸借契約に基き昭和三六年四月分より一ヶ月金五、〇三六円の賃料請求権を有するところ、被告は右賃料額を争つているので、これが確認を求める。すなわち、

(1)  昭和三六年四月より固定資産税の改定があつて、公租公課が増額され、一方、物価騰貴等の経済事情の変化によつて、賃料を増額する必要が生じた。そこで原告は、諸般の観点から本件土地の賃料は、坪当り一ヶ月金三五円をもつて相当と認めたので、昭和三六年三月下旬に同年四月分より賃料を坪当り金三五円に増額する旨を被告に通知した。

(2)  被告所有の本件建物は、階下はマーケツト、階上は賃貸アパートにして専ら営業用に使用しており、また建坪も大であつて、本件土地には地代家賃統制令の適用がない。

(3)  被告は本件建物が営業の本拠であつて、マーケツト経営というような立地条件は、専ら土地の利用価値から生じ、地上建物を営利目的にのみ使用している。

(4)  原告は、被告らより本件土地の賃貸借契約に当つて、借地権利金その他借地名義書換料等を一切受領していない。

(5)  本件土地の更地価格は、坪当り金一〇万円と評価され、本件土地附近には、通称赤羽団地と称する公団住宅が建築され、人口も増加し、附近の土地価格は近年とみに急騰している。このような事情の下で、地代算定の基準たる地価を評価してみると、少くとも金一、四三九万円と評価される。

(6)  以上の諸点から、本件土地の客観的適正賃料は坪当り一ヶ月金四一五円と算出されるが、原告はこれを任意減縮して坪当り金三五円の範囲で増額を求めたものであつて、客観的にみて極めて相当である。

被告の抗弁に対し、次のとおり述べた。

(一)の事実中、原告が被告主張のような賃料値上の請求をしたこと及び被告が昭和三六年九月一〇日被告主張額を持参提供したが、原告において受領拒絶したので、被告がこれを主張の日弁済供託したことは認めるが、その他は争う。前記第二で述べたとおり原告の値上請求額は客観的にも相当である。

(1)(2)の本件賃料値上げの経緯、固定資産評価格、固定資産税及び都市計画税が被告主張のとおりであることは認める。

(3)ないし(5)の主張は争う。

(二)の事実中、被告主張のような供託をしたことは認めるが、その他は争う。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一の一ないし四項は全部認める。

同第五項は争う。

同第二の(1)の事実中、原告主張の頃、本件土地の賃料を昭和三六年四月分以降一ヶ月坪当り金三五円に値上する旨の通告を受けたことは認めるが、その他は争う。(2)の事実中、本件建物が部分貸式のマーケツトと賃貸アパートになつていること及び本件土地には地代家賃統制令の適用がないことは認める。店舗部分は約四分、住宅部分は約六分である。

(3)の事実中、被告がマーケツトを経営していることは否認する。その他は争う。

(4)の事実は不知。

(5)の事実は争う。本件土地の更地価格は、坪当り三五、〇〇〇円ないし四〇、〇〇〇円である。赤羽団地は本件建物から一千米位離れ、かつ、谷間を越えた高台にあるので、本件土地の地価には殆ど影響がない。

(6)は争う。

と述べ、抗弁として、

(一)  被告は、原告より昭和三六年三月下旬、本件賃料を同年四月分より一ヶ月坪当り金三五円に値上する旨の通告を受けた。しかしながら、被告は、固定資産税の前年度に対する増額率、原告の従来本件土地についてなしてきた賃料増額率、比隣の賃料、物価の高騰率等諸般の事情を勘案し、本件土地については、昭和三六年四月以降、従来の賃料に二割五分を増額した坪当り金二五円、合計一ヶ月金三、五九八円が相当賃料額であると認めた。

そこで、被告は、原告の賃料催告に対し、その期間内である昭和三六年九月一〇日原告代理人弁護士旦貞康に対し、昭和三三年七月一日より昭和三六年三月末日までは原告の要求どおり一ヶ月金二、八七八円(坪当り金二〇円)の割合で計算した金九四、九七四円と、昭和三六年四月一日より同年八月末日までの分は、前記理由で被告において相当賃料額と認めた一ヶ月金三、五九八円(坪当り金二五円)の割合で計算した金一七、九九〇円、以上合計金一一二、九六四円を持参して提供したが、請求額と異るからとて受領を拒絶されたので、被告はこれを同年一〇月二三日原告のため弁済供託した。しかして、

(1) 本件土地の地代値上げの経緯は、次のとおりである。

昭和二六年八月より同年一二月まで一ヶ月坪当り金    五円

同 二七年一月より同年一二月まで一ヶ月坪当り金    七円

同 二八年一月より同二九年一二月まで一ヶ月坪当り金 一〇円

同 三〇年一月より同三二年六月まで一ヶ月坪当り金  一三円

同三二年七月より同三三年六月まで一ヶ月坪当り金   一五円

同三三年七月より同三六年三月まで一ヶ月坪当り金   二〇円

(2) また、本件土地の固定資産の評価格、固定資産税、及び都市計画税は、次のとおりである。

年度 評価格(一八四・八坪分) 固定資産税(同上) 都市計画税(同上) 税合計 本件土地(一四三・九坪)の相当税額

昭和二六二七年度 三三九、二九二 四、七四〇 六七〇 五、四一〇 四、二一一

〃二八年度 三七一、四四八 五、一九〇 七四〇 五、九三〇 四、六一六

〃二九年度 四七四、九三六 六、六四〇 九四〇 七、五八〇 五、九〇一

〃三〇年度 六一七、二三二 八、六四〇 一、二三〇 九、八七〇 七、六八四

〃三一年度 六一七、二三〇 八、六四〇 六一〇 九、二五〇 七、二〇二

〃三二年度 六一七、二三二 八、六四〇 一、二三〇 九、八七〇 七、六八四

〃三三年ないし三五年度 六九八、五四四 九、七七〇 一、三九〇 一一、一六〇 八、六八九

〃三六年度 八三七、一四〇 一一、七一〇 一、六七〇 一三、三八〇 一〇、四一八

(3) 右によつて明らかなとおり、昭和二六年より昭和三六年三月までの賃料は、東京都北税務事務所における本件土地の評価増率、固定資産税の増加率に略同率に地代の値上がされている。

(4) しかるに、昭和三六年四月以降の賃料について、昭和三三年度ないし昭和三五年度の本件土地を含む北区稲付西町六丁目二番地宅地一八四坪八合の評価格、固定資産税及び都市計画税に比較し、昭和三六年のそれは、二割弱の増加率であるにも拘らず、原告は、無暴にも一挙に七割五分の増額を要求してきたものである。

(5) そこで被告は、前記事情の下において、昭和三六年四月一日以降の相当賃料は、一ヶ月金三、五九八円(坪当り金二五円)であると確信し、その額を原告に提供し、弁済供託したことについて全く過失がない。

(二)  仮に右賃料額が客観的相当額に不足する場合は、被告は何時でもこれを弁済する用意がある。本件訴訟において、鑑定人石川市太郎の鑑定(坪当り金三〇円)、同川口立夫の鑑定(坪当り金三四円)の各結果が報告されたので、その中間額一ヶ月金四、六五〇円(坪当り金三二円)が本件土地についての昭和三六年四月一日以降の客観的相当額と認められるときは、右金額と従来被告が供託してきた一ヶ月金三、五九八円との差額金一、〇〇七円については、何時でも原告に対し、弁済に応ずる用意があり、すでに被告は、昭和三八年四月一日以降同年一〇月分までの賃料について、右一ヶ月金四、六〇五円の割合で昭和三八年一一月一八日に弁済供託した。

したがつて、本件賃料の履行遅滞について、債務者たる被告において、その責に帰すべき事由はないから、右遅滞を前提とする原告の本訴請求は理由がない。

と述べた。

証拠 ≪省略≫

理由

第一、本位的請求に対する判断

一、原告主張の請求原因第一の一ないし四の事実は全部当事者間に争がなく、また、原告が被告に対し、昭和三六年三月下旬同年四月分以降の賃料を一ヶ月金五、〇三六円(坪当り金三五円)に値上請求したことも争がない。

被告は、右値上賃料額は一ヶ月金三、五九八円(坪当り金二五円)が相当である旨争つているので、以下右値上額につき検討する。

本件土地については地代家賃統制令の適用がなく、被告主張のような経緯で昭和二六年以降賃料が値上されてきたこと、同年度以降の本件土地の固定資産評価格、固定資産税及び都市計画税が被告主張のとおりであることもまた当事者間に争がない。

そこで、証人増田昌の証言、原告及び被告代表者尋問の結果と鑑定人石川市太郎、同川口立夫の各鑑定の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  本件土地は、国電赤羽駅の西南方約八〇〇米、同十条駅の西方約一、四粁、都電蓮沼町停留所の東方約一、二粁に位し、前記停留所から東へ入る一一米通路とそれに直交する八米道路に面する角地である。右一一米道路に面する両側は、都市計画上商業地域、準防火地域に指定され、このすぐ裏側は住居専用地区、第八種空地地区に指定されているところ、右道路沿いには日用品小売店舗があるが、裏地は住宅地で右道路は余り賑やかでない。

(2)  本件地上には、建築後三〇年内外と推定される木造二階建の店舗兼アパート二棟がほぼ地上一杯に建築され、この前側は、小売市場通称稲付第一市場、後側及び二階はアパートとして使用されている。

被告は、貸店舗及び貸間業を目的とする会社であるが、右建物中マーケツト七店舗、アパート二七世帯を他に賃貸し、一ヶ月約十二、三万円の賃料収入がある。

(3)  右土地の立地条件等からする本件土地の更地価格は、昭和三六年四月当時坪当り約六七、〇〇〇円、借地権価格はその八五%と評価して五六、九五〇円、したがつて、その差額である元本(土地)価格は一〇、〇五〇円と評価される。

そこで、右元本価格を基礎とした新規賃料額を算定すると次のとおりになる。

A 土地資本利子(元本価格×年六分)

一〇、〇五〇円×〇、〇六÷一二 五〇、二五円

B 固定資産税及び都市計画税(課税標準価格×年税率一分六厘)

四、五三〇円(坪当り)×〇、〇一六÷一二 六、〇四円

C 管理費(Bの税額の二割)

六、〇四円×〇、二 一、二一円

D 合計新規賃料

五〇、二五円+六、〇四円+一、二一円 五七、五〇円

しかし、本件は、借地権設定の時期も古い賃貸借の継続賃料であるから、商業地の賃料の動向、近隣賃料の相場等を勘案すると、右新規賃料に比較して約四割以上低下する。

したがつて、右算定方式に従つた継続賃料は四割減として、

五七、五〇円×〇、六 三四円(円未満切捨)

となる。

(4) ところで本件賃料は、殆んど毎年値上されておるに拘らず、昭和三三年七月以降は約三ヶ年据置きされているが、昭和二六年度以降の賃料値上の経緯をみると、東京都北税務事務所における本件土地の評価増率、固定資産税の増加率にほぼ同率に賃料の値上がなされている。

(5) 昭和三六年度の本件土地の固定資産評価格、固定資産税及び都市計画税を昭和三三年度ないし昭和三五年度のものと比較すると、約二割弱の増加率を示しているが、昭和三六、七年頃本件土地附近の賃料は、住宅地で、坪当り一ヶ月金一三円ないし一八円、商業地はそれより高く、赤羽駅西口附近の繁華街にて金四、五十円である。

(6) 原告は、本件借地権設定当時、前借地人より借地権利金を受領しなかつたし、また、昭和二五年三月契約更新の際、及び被告が本件建物を競落取得し、本件借地権を承継した昭和二六年七月二四日当時にも、いわゆる更新料又は名義書替料は受領しなかつた。

ところで、最近における土地価格の高騰及び物価上昇率の著しいことは、公知の事実であるので、以上(1)ないし(5)の各事情を併せ斟酌したうえ、当裁判所は、本件賃料を昭和三六年四月分以降は一ヶ月坪当り金三二円に値上げするのを相当と考える。前記(6)の事情は、昭和三六年四月に至つて、にわかにこれを斟酌して賃料値上額を決定するのは妥当でないし、本件地上建物が被告の営業用資産として、営利目的に使用されていることは賃料評価の基礎となる土地価格を商業地として評価したこと等をもつて足り、営利目的の借地賃料の上昇率が非営利目的の借地賃料の上昇率に比し、特に高率であることを認めるべき資料はない。

原告本人尋問の結果及び鑑定人石川市太郎鑑定の結果中、右認定に反する部分は採用しない。

そうだとすると、借地法第七条に基く賃料増額請求は、形成的効力を有し、請求者の一方的意思表示により爾後客観的相当額に増額されるから、本件土地の昭和三六年四月一日以降の値上された賃料額は、一ヶ月坪当り金三二円の割合で計算した金四、六〇五円(円位未満四捨五入)をもつて相当と認める。

二、原告は被告に対し、昭和三六年四月分以降右値上額による賃料を請求する権利があるところ、原告が昭和三三年七月分以降同三六年三月分までは一ヶ月坪当り金二〇円、同年四月分以降同年八月分までは一ヶ月坪当り金三五円の割合による賃料合計金一二〇、一五六円の支払を催告したことは当事者間に争がない。

しかし、前記認定にかかる値上額で計算した原告主張分の延滞賃料は合計金一一七、九九九円となり、右金額を超える部分は過大催告となるけれども、その差額は僅少であるので右金額の範囲内で催告を有効と解すべきである。

そこで、被告の抗弁について検討する。被告が右催告期間内である昭和三六年九月一〇日被告において同年四月分以降の相当賃料と認めた一ヶ月金三、五九八円(坪当り金二五円)で計算した延滞賃料合計金一一二、九六四円を原告代理人弁護士旦貞康に対し持参提供したが、その受領を拒絶されたので、同年一〇月二三日原告のため弁済供託したこと及びその後昭和三八年四月分以降一〇月分までの賃料については、同年一一月一八日一ヶ月金四、六〇五円(坪当り金三二円)の割合による賃料を弁済供託したことはいずれも当事者間に争がない。

しかして、証人増田昌の証言及び被告代表者尋問の結果によると、被告は、原告の賃料値上の請求に対し、直ちに東京都北税務事務所に赴き本件土地の公租公課の増額率等を調査するとともに、近隣土地の賃料等を調べたうえ、役員会を開き、さらに従来の賃料値上率、物価の高騰率等諸般の事情を検討して一ヶ月坪当り金二五円の賃料値上額をもつて相当と判断し、右賃料額による弁済提供をなしたものであり、右賃料額が不足するときは、何時でも原告に対し、その差額を弁済する意思及びその用意のあることが窺われる。

してみれば、被告が原告に対してなした弁済提供の額は、前記認定にかかる延滞賃料額に比して僅かな差に過ぎないし、被告は、原告の賃料値上の請求に対し、誠意をもつて相当賃料につき調査を尽したうえ前記値上額をもつて相当と判断したものであることを考え併せると、被告は右認定額に対する賃料支払の債務は免れ得ないけれども、過失なくして右弁済提供をなしたものといえるから、賃貸借契約がいわゆる継続的契約関係にして当事者の信頼関係を基礎とするものであることに鑑みれば、被告は、信義則上契約解除の前提たる履行遅滞の責任はないものというべきである。

はたしてしからば、被告の債務不履行を理由とする契約解除はその効力がないから、これを前提とする原告の本位的請求はその他の点について判断するまでもなく失当として棄却するほかない。

第二、予備的請求に対する判断

すでに認定したとおり、原告の賃料値上の請求により、原告は被告に対し、本件賃貸借契約に基き昭和三六年四月一日以降一ヶ月金四、六〇五円(坪当り金三二円)の割合による賃料請求権を有することは明らかである。被告は右賃料額を争つているので、右認定の範囲内で、原告の賃料請求権を確認する利益がある。

したがつて、原告の被告に対する予備的請求は、右認定の限度で正当であるが、その他はこれを棄却する。

第三、結論

以上により、原告の本位的請求はこれを棄却し、予備的請求は右認定の限度で認容し、その他は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土田勇)

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